加齢を怖がる人ほど老化が加速しやすく、寿命も短くなる――。こんなショッキングな研究結果があることをご存じでしょうか。それには、ある「偏見」が関係しているといいます。
若々しくありたいという思いは、シニア世代共通の願いだろう。だが、過剰に老化を気にしていると意外な落とし穴にはまるリスクもある。
米エール大学公衆衛生大学院のベッカ・R・レビー教授らの研究によれば、老化に対してネガティブな感情を持つ高齢者は、血圧や心拍数が上がったり、急性心筋梗塞(こうそく)からの回復率が低下したりすることなどがわかっている。
メンタル面でもストレスや孤独を感じやすくなり、記憶力をつかさどる海馬が縮小して認知症リスクも高まるそうだ。さらに、病気からの回復が遅れやすい。その結果、寿命が短くなってしまうという。
では、老いを恐れる人々がかえって老化を加速させてしまうのは、いったいなぜなのだろう。
「能力が低くなる」「忘れっぽくなる」「性的な能力や魅力が失われる」「孤独で不幸になる」「人生において最悪の年代だ」。人々が抱きがちな高齢期に対する偏見は、若い頃であれば対岸の火事だ。
だが年をとれば、偏見はそっくり自分自身に向けられることになる。そうなれば人生に対する満足度は低下し、自信も失われる。恐れや不安は年齢をかさねるほど募るはずだ。慢性的なストレスから健康が損なわれてしまうのもうなずける。
老いに対する恐れや嫌悪を「ジェロントフォビア(Gerontophobia)」と呼ぶが、まさに、老後の健康と幸せを阻む“心の悪玉菌”といえるだろう。
実際、老いに対して前向きな人はそうでない人に比べ、平均で7.5年ほど寿命が長いことが、同じくレビー教授らの研究でわかっている。それだけではない。入浴や歩行といった生活機能が低下するスピードも遅く、重度の障害から回復する人の割合が高いことも明らかとなった。
ジェロントフォビアを抱く人々は、周囲や自分に対するゆがんだ認知の“わな”にハマっているといえる。第一に注意したいのは「外見のわな」だ。
「『ハロー効果』という心理学の理論があります。目立つ特徴にとらわれ、他の面に対しても同じような評価を下してしまう現象を指します。たとえば『外見が美しい人は能力も高い』などですね。逆に高齢化して容姿が衰えると、能力が低いと判断してしまう可能性があります」
部分的な特徴によって相手を決めつけてしまう「過度の一般化」にも要注意だ。たとえば、寂しげなくぼんだ目から「孤独な生活をしている」と思い込んだり、ゆっくりとした歩行速度から「非活動的な人だ」ととらえたりする、などだ。
二つ目のわなは“気の若さ”だ。
自身を「高齢者だ」と思う年齢は、高齢になるにつれ上がっていくことが、これまでのさまざまな研究で明らかになっている。「自分はまだまだ若い」「高齢者の仲間ではない」と信じることで年齢から目をそむけようとするのだろう。
気が若いこと自体はけっして悪いわけではない。最近の米国の研究結果でも、自分はまだまだ若いと感じることは、健康にも認知能力にも好影響を与えるとされる。
無意識のうちに根づいた偏見を改めるのは簡単ではないだろう。とくに、見た目の加齢変化が「劣化」と呼ばれ、「働かないおじさん」「老害」といった言葉が飛び交う現代は、年齢を受け入れにくい時代といえるかもしれない。
一生、ワクワクできそうなライフワークを探すことで、自分なりの高齢期の生き方が見えてくるのかもしれない。
先行き不透明な時代だけに、健康づくりや老後資金づくりの地道な努力も欠かせない。お手本にできる身近な人生の先輩を見つけたり、歴史上の人物に学んでみたりするのもいい。
強迫観念に駆られて若返りにお金と時間をつぎ込むより、自分のペースで健康維持し、楽しく年をかさねる方法を考えたい。「将来、こんなふうに生きられたら」と若い人が憧れるような、かっこいい高齢者になれたら最高だ。
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