いまこそ論語を学ぶ理由(えんがわ劇場 第205号)

佐々木常夫氏(元東レ経営研究所社長)

/1,944年秋田県生まれ。自閉症の長男ら3人の子どもの育児とうつ病の妻の看病を続けながら2001年東レ取締役就任。03年東レ経営研究所社長。

論語を愛読するようになったきっかけは高校生のとき。「子のたまわく~」と論語の一節を唱えながら教室に入ってくる漢文の先生がいて、すごくかっこよかった。自然に言葉が体に入ってくるという経験に起源があります。

論語は中国春秋時代の思想家・孔子の教えをまとめた書物で、人生で大切なことが鋭い洞察力で書かれた、いわば総合人間学の本です。キリストや釈迦のような近寄りがたい存在とは違い、孔子は言っていることが人間臭い。下級役人から出世したかったけどできなかなった不遇の人生で、収入を増やすことや偉くなることを否定しません。仕事ではプロセスは重要だけど実績も残さなければならないとも説いている現実主義者です。

孔子は人間にとって最も大切なのは「恕(じょ):思いやり」であると言っています。お金もうけも大切だけど、相手のために、社会のために行いなさい、ということです。

『論語と算盤』を書いた渋沢栄一は、欲でできている資本主義に、論語の教えを取り入れることで日本の資本主義を健全に保ちました。報酬よりも国の将来を見据えて会社や大学を次々と立ち上げたのです。会社のトップや政治家の多くは私利私欲のために仕事をした人が結局偉くなるでしょう?今の時代に渋沢が見直されるのは、そんな風潮に対するアンチテーゼであり投げかけです。

論語には会社で起こるいろいろな出来事に対してサジェスチョン(示唆)してくれる言葉がたくさんあり、リーダーの育成書ともいえます。たとえば「君子は器ならず」。ビジネスでは自分の領域(器のこと)のプロ、すなわちスペシャリストでなくてはならない。しかし、地位が上がるにつれ、大所高所から物事を見て仕事は部下に任せなさい、ゼネラリストの素養を磨きなさいと言っています。組織のリーダーになる人には、論語を勉強してほしいと思います。リーダーとは、小さなチームを率いる立場にも当てはまります。

2500年も前の言行を記した書物がなぜ、いまも読み継がれるのか。それは人間が進化しないからです。技術は進化を遂げてきましたが、人間は生まれるとゼロからスタートです。生きるとは何か、ゼロから学ばないといけないので、いつまでも愚かな戦争を続ける。人生経験を積んでから「論語のような考え方があるのか」と知るわけですから、人間的により早く成長するためには、なるべく早く習得させる必要があります。若いうちはまだ論語の本当の意味するところは分からなくていい。読み親しんでおけばやがて「こういうことだったのか」とわかるときが来るはずです。私は常々「良い習慣は才能を超える」と思っています。論語を読む習慣は、40代以降に非常に効果が出てきます。私が人間的にも最も成長したのが40代でした。このあたりが、論語が人生を支える名誉といわれるゆえんでしょう。今思えば、部下や同僚などの周りにもっと薦めておくべきでした。

「朋遠方より来たるあり。また楽しからずや」(学而)

現代語訳:(友人が遠方よりやってきた。なんと楽しいことだろう)

中国から代表団などが来た時歓迎宴会でよく引用される言葉です。日中双方が知っている言葉なので、同じ文化を共有していることで互いに親しみが増す瞬間です。

意味は文字通り「遠方にいる友人が訪れてくれた。なんとうれしく楽しいことだろうか」という意味です。孔子のシンプルな心が伝わってきます。

故を温めて新しきを知る。(為政)

現代語訳:(昔の人の書物をよく読み習熟して、そこから今に応用できるものを知る)

これも有名な言葉です。孔子は歴史に学ぶ、特に客観的・実証的に学ぶことを勧めていたと言われます。現代でも充分に通用する忠告です。

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