難題に直面しても心の声を聞けば答えが分かる(えんがわ劇場 第202号)

塚本 こなみ

はままつフラワーパーク理事長

樹木医

「根回し」という言葉がありますよね。会議や交渉の前に関係者に話を付ける政治的な意味で使われますが、もともとは造園用語です。樹木を別の場所に移すために、1~2年前から根元を掘り出して引っ越し用の新しい根を作る作業を指します。

1992年に樹木医の資格を取得しました。それまでは夫が経営する会社で20年間、造園の世界に関わってきました。女性で初めて合格できたのは、100本以上の古木を移植して1本も枯らさなかった実績が認められたのかもしれません。

移動がとりわけ難しいのが藤です。つる枝が束ねられて形成される幹はいびつで、クレーンでつり上げる際にロープで傷つきやすい。樹木医2年目に、栃木県足利市の農園から樹齢130年の大藤4本の移植相談がありました。何社にも断られて4年が過ぎたという大藤に対峙してみると、生命の息吹にあふれていて、思わず引き受けてしまいました。ただ直径1mを超える藤の移植方法など、どの文献にも見当たりません。作業開始まで1カ月を切ったある日、部下が事故で首をけがした際に石こうで固定していたという雑談から、幹に石こう包帯を巻いて動かす案が浮かびました。

当時、私はまだ40代半ばでした。ベテラン職人の男性陣は不安だったことでしょう。最初に「私の指示に従っていただきます」と宣言したときには驚かれましたが、樹木医としての知識をベースにどんな質問にも答えることで関係を構築しました。2年間で総勢2000人が関わったプロジェクトは成功し、20km離れたあしかがフラワーパークの地に根付かせることができたのです。

このご縁で99年には園長に就任、藤の名所に近い地域に「世界一の藤のガーデン」と挑戦的なチラシを配布した施策が当たり、入園者数は20万人から100万人に回復しました。はままつフラワーパークでは、2013年から理事長として改革を進めていますが、最初に一律800円の入園料を廃止しました。年間入園者の7割が集中する3~6月は花の咲き具合によって600~1000円に、暑い時期の7~8月は無料に、9~2月は500円として園内のお買い物券300円をつけてお得感を出しています。価格変動制の導入で30万人を切っていた入園者数は2年間で80万人近くまで伸び、閉園の危機を乗り越えたのです。

「世界一美しい桜とチューリップの庭園」と銘打ちましたが、どちらも楽しめる時期が2週間と短い。そこで桜が終わった後からゴールデンウイークまで観賞できる藤の棚を導入しました。15~20年と若い藤ですが、今年も妖艶で力強い姿をご覧いただけます。

コロナで休園を余儀なくされた時期もありましたが、屋外の安心感も手伝って客足は戻ってきています。経営に「損益分岐点」があるように、サービスにも「感動分岐点」があります。心を動かす分岐点を超えれば、どんな状況でもファンは必ず増えます。今、パークでは不登校や引きこもりの若者を対象にした園芸療法も進めています。花を育てることで生気を取り戻していく様子に、植物の持つ力を実感します。

訪れてくださる方の心にしっかりと根を張りたい。難題に直面しても、真摯に内なる声を聞けば答えは見つかります。樹木も人も同じと考えています。(談)

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