困っている人を地域で支える「社会的処方」をゲームで体験してみた(えんがわ劇場 第204号)

野哲・ライター/立教大学社会デザイン研究所研究員

開発したのは、高齢者とその家族らの相談支援事業をしている、千葉県松戸市の一般社団法人「コレカラ・サポート」(千葉晃一代表理事)。ゲーム名の「コーピング」とは「対処する」の意味だ。

ゲームに参加するプレーヤーは基本4人。手順はまず、プレーヤーが「研修中の医大生」や「ファイナンシャルプランナー」「カフェのマスター」などの「役割」を担うことから始まる。それぞれ話を聞くのが得意だったり、経済的な相談に力を発揮したりするといった特性を持つ。ゲームボードはAからFまで六つの地域に分かれており、スタートの時点は「2021年」と設定されている。

プレーヤーはターンごとに、順番に二つのアクションを行う。まず、「家族のことで悩んでいる」「高齢で不安」などの悩みが一言だけ書かれた「住民カード」を山札から引き、カードに指定された地域に置く。次に以下の三つのどれかを選択して行う。(1)住民に声をかけて本当の悩みが何かを引き出す「コーピング」(2)ケアマネジャーら専門家や施設などの「地域資源」と自分自身が関係を築く「つながり」(3)本当の悩みが明らかになった住民に対し地域資源を紹介するなどして解決を図る「処方」だ。

引いた状態では、住民カードの裏面に記載してある本音がわからない。だから、まずはコーピングによって、カードを裏返して本当の悩みを引き出すことがポイントとなる。悩みは「お金」「健康」「住まい・生活」「人間関係」の4つに大別されているが、「引きこもりの息子と同居。自分が元気なうちはまだ良いが、将来自分が亡くなったあとはどうなってしまうのか、将来に不安を感じている」「先日、定期健診でがんの再発がみつかった。今後の自分の治療だけでなく、今後の生活や子供たちの将来のことなどが不安」「5年前から義母の介護をしているが、実家の母親も介護が必要になってきた」など、詳細な内容はいずれも千葉さんが実際に受けた相談をベースにしている。

明らかになった本当の悩みに応じて、ほかのプレーヤーと話をしながら、どの地区のどの悩みに対処するのが喫緊の課題かを考えて行動する。いまの自分だけではどうしようもないから「つながり」を増やす選択をすれば、直接には課題解決はできないが、「処方」によっていつか将来には解決に導ける。処方で解決できた住民カードは場から取り除く。アクションに応じてプレーヤーの経験値が上がれば、一度に対処できる対象人数が増えるなどしていく。プレーヤーが一巡するとゲームでは1年が経過したことになり、その時点で悩みが解決されていない人が一つの地域内に4人以上残っていれば「地域崩壊」でゲームオーバー。10年間、つまり2030年末まで地域を存続できればクリアとなる。

一見簡単そうなのだが、1人の住民に複数の悩みがあったり、ターンによっては突然、住民カードを一度に2枚引く、つまり悩みを抱える住民が倍に増えるなどの「ハプニング」が起きたりする。そのため、何より必要となるのがプレーヤー同士の連携だ。筆者も実際にオンライン版ゲームを体験したが、お互いの得意を生かしつつ、どの地域のどの悩みに対処するか、だれが本当の悩みを引き出すかなどを話し合わないとクリアはかなり難しい。限られた地域資源を最大限生かすうえでの鍵は、住民同士の協力であることが実感できる。ゲーム終了後には振り返りの時間を設けて、なぜ地域崩壊が起きたかの分析や、「実際によりよい地域にするために自分にどんなことができるか」などを話し合うことができる。

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