誰も逃れられない「昼食後睡魔」の理由(えんがわ劇場 第218号)

毎日、昼食後に眠気を感じる人は少なくないはずです。一般的にこの理由は「食後は消化のために胃に血流が集中し、脳の血流が低下するため」と理解されているようです。

もしその通りならば、朝食後や夕食後にも同様の眠気に襲われてしかるべきです。しかし、そのような訴えを耳にすることはほとんどありません。そもそも毎食後に眠くなるようでは日常生活に支障が出てしまうでしょう。この昼食後の眠気がなぜ生じるのかをお話ししたいと思います。

2017年にノーベル医学生理学賞をアメリカ人研究者3人が受賞しました。そのテーマは「概日リズムを制御する分子メカニズムの発見」でした。「概日リズム」とは、生物が体内に備えている時間測定機能(体内時計)によって、日常生活が約24時間周期に規定されることです。

この体内時計の仕組みにより、ヒトは昼間活動し、夜間は睡眠で休息をとり、それに応じて臓器などの活動もリズムが保たれています。

実はこの体内時計をより詳しく調べていくと、ヒトの覚醒レベルは朝の起床直後から急上昇し、昼前に右肩下がりに低下していきます。そして、午後2~3時ぐらいに覚醒レベルが最も低くなります。その後、再び夜に向けて覚醒レベルが上昇し、午後9時前後を境に再び低下していきます。

つまり体内時計の働きで、昼食後の午後2~3時は誰もが眠くなってしまう時間なのです。

もう一つ、昼食後に眠くなる科学的な理由があります。それは日本人の研究者が1990年代後半に発見した「オレキシン」という脳内神経伝達物質の一種が関係しています。

オレキシンは主に、「空腹時の食欲増進」と「覚醒の維持」の二つの働きを持つことが知られています。

オレキシンはヒト以外の動物の脳内にもあり、「食事を取る」という行動と密接な関係があります。動物は、おなかがすいたら食べ物を探さなくてはなりません。特に肉食動物や大昔のヒトにとっては「食事を取る=狩りを行う」ことです。

つまり空腹時はオレキシンにより覚醒が維持される必要があるのです。そして、食後は体内で作られるオレキシンの量(分泌量)が低下します。

このように、昼食後の時間帯は、体内時計の仕組みとオレキシンの作用が、共に覚醒低下に向けて働く時間帯なのです。

避けようのないこの昼食後の眠気は、仕事や学業に励む人にとっては面倒なものです。これを防ぐ方法は、二つあります。

一つは、夜間に6~8時間の睡眠をしっかり取ることです。夜間に十分な睡眠を取れていない人は、当然ながら昼食後に眠気を強く感じます。

もう一つの予防法は昼寝です。ただ、昼寝の時間は30分までにとどめる必要があります。

睡眠は、脳も体も眠る「ノンレム睡眠」で始まり、その後、脳は起きていても体が眠っている「レム睡眠」へと移行します。ノンレム睡眠は眠りの深さに応じて4段階に分けられます。最も深い4段階目の睡眠は、早ければ眠り始めてから30分後に到達してしまいます。

4段階目のノンレム睡眠から起きた直後は、体は起きているのに脳は眠気を引きずってボーっとした「睡眠慣性」という状態です。この時に活動すると、不注意でミスをしたり、思わぬ事故を起こしたりするなどの悪影響が出かねません。ですから、4段階目のノンレム睡眠に到達する前に起きるのが昼寝のコツです。

昼寝に適した時間帯は、日中の覚醒レベルが最も低下する午後2~3時です。しかし、その時間帯に昼寝をするのは難しいでしょう。そこで、昼休みの一部を昼寝に当ててみましょう。完全に横になる必要はなく、椅子に座って机に伏せた状態でいいのです。  短時間の昼寝でも、脳の活動は低下し、疲労回復と眠気の解消に役立ちます。これにより、脳はリフレッシュし午後の業務や学業の能率がアップするはずです。

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